2021.01.18

顧客満足度を高めることが成功の鍵
高広伯彦氏と語るBtoBマーケティングの現状と課題

  • BtoBマーケティング
顧客満足度を高めることが成功の鍵。高広伯彦氏と語るBtoBマーケティングの現状と課題 | 対談 | GAX(ガックス)

昨今は “BtoBマーケティングブーム” と言われるほど、多くのメディアがBtoBマーケティングを話題にし、アウトバウンド営業中心だった企業もデジタルツールを利用したBtoBマーケティングに取り組み始めるといったことが起きています。

一方で、MAツールや話題のマーケティング手法といったことに振り回されてしまい、「BtoBマーケティングに取り組んでいるが、なかなか思ったように成果がでない」という企業も多いのではないでしょうか。

そこで今回、日本を代表するマーケティング・コンサルタント高広伯彦氏をお招きし、日本のBtoBマーケティングの現状や課題、BtoB企業の組織体制に至るまでを「GAX」の責任者である 佐藤岳(さとうがく)と議論しました。

直線的に広告からLPへ飛んで資料請求するとは限らない

佐藤岳:私自身、様々な企業の担当者の方からBtoBマーケティングについてご相談をいただく機会があるのですが、その方々の多くは顧客をリアルに理解できていないという印象があります。

そして「MAツールを導入しよう」「こういった集客広告で展開しよう」などと手法にだけ目が向いてしまい、本来見るべき顧客に目を向けられておらず、結果的に効果が出ない、という状況に陥っているなと。

たとえば、弊社ではCVポイントがないタイアップ記事を展開したりもするのですが、そうすると外部の方からは「CVポイントがなくても、成果があるんですか」とよく聞かれるんですね。

しかし、この施策で重要なことは、ターゲットとなる読者が記事を通じて「自分たちも、こういうことに悩んでいるな」と、潜在課題を顕在化させること、すなわちインサイトの提供です。そして課題が顕在化して、もっと知りたいとなったときにお客様が自身でセルフエデュケーティングできるコンテンツを用意するなど、お客様の購買プロセスに沿った販売プロセスを設計しなければなりません。

そう言っても、なかなか理解してもらえないので、私がコンサルさせていただくときは「まずはご自身の購買行動を思い返してみましょう」とやるんですよ。そうすると、皆さん何かしら自分で調べたりして購入に至っているわけで、 “直接CVに結びつく広告” が購入の決め手ではなかったことに気づくわけです。

多くのマーケターは間違った考え方をしている「直線的に広告からLPへ飛んで、資料請求するとは限らない」

高広:多くのマーケティング担当者は、お客様が広告からランディングページ(以下、LP)へ飛んで、資料請求だったり問い合わせをするというような行動が直線的に起きていると考えすぎだと思います。

態度変容を起こすマーケティングがもたらす意味や効果

記事を読んで書かれていることが気になったら、そこに書かれている企業やサービスのことを普通に調べるじゃないですか。そういった我々が当たり前のように行動していることを、マーケティング担当者の人たちは意外と理解できていないなと感じています。

それと、”お客様の課題に応える” とよく言われますが、この「課題」というのがミスリードを生み出していると思っていて。課題は常に顕在化しているかというと、そうではないわけですよね。すでに課題を認識している人はそれに対するソリューションを探しますが、そもそも課題を認識していない人に対しては、まず課題認識をしてもらわないといけません。

コンテンツマーケティングの名の下に企業としては「課題解決」のためのコンテンツを発信していくわけですが、ターゲットユーザーは課題を認識していないわけですから、その周辺のテーマから課題に落とし込まないと、課題解決のコンテンツにもスルーされてしまうわけです。

そういった認識のギャップを埋めるような、態度変容を起こすマーケティング・広告活動というもののもたらす意味や効果について、デジタルマーケティング領域しかやっていない人たちには欠けているなと。だからこそ、「タイアップ広告の効果ってどうなんですか?」という話が出てくるわけです。

認識や態度変容を促すという考えが頭の中にインストールされていれば、タイアップ広告の結果、次にユーザーはどういった行動を起こすか、というのを考えられるじゃないですか。

多くのマーケターは間違った考え方をしている「直線的に広告からLPへ飛んで、資料請求するとは限らない」

佐藤岳:実際に弊社のケースで言うと、あるお客様の行動履歴を調べたら、はじめにタイアップ記事を閲覧して、翌日に検索から弊社のサイトに訪問していて、さらに最初の記事で気になったであろうワードで検索してヒットした弊社の別の記事コンテンツを閲覧して、最終的に問い合わせをいただきました。

つまり、お客様自身で学習して問い合わせに至っているわけです。多くのマーケターは、CVしたとか、クリックしたとかのアクションだけ見ていて、お客様がどういった行動をしているか、行動履歴というのをちゃんと見ていないなと。

ビジネスモデルによって顧客の行動は違えど、必ずCVに至る前にいろいろな行動をしているわけです。複数回サイトに訪問していたり、参考記事を読んだりしているわけで、広告をクリックしてすぐアクションした、ということはないんですよね。

課題認識を生み出す接触機会を設計することが大切

高広:また、広告をクリックしてアクションした人がどういう人なのかを、理解することも重要。広告に反応している時点で購買に近い人たちとも考えられるわけだけれど、では購買に近い状態ってどう生まれているのか、ということを考察しないとけない。興味関心もなしに広告をクリックして資料請求しているなんてことはないので。

なぜなら、インターネット広告というのは、広告単体で態度変容を起こしづらいからです。タイアップ記事は別として、枠として存在しているインターネット広告というのは、派手なディスプレイ広告や動画広告だとしても、それはどれも「ハイパーリンク」だと考えるべきです。

そしてユーザーがなぜリンクをクリックするかというと、ユーザー自身にとって気になることが書かれているからクリックするわけですよ。その “気になること” というのって広告だけで生まれるわけではないですよね。

日々の行動の中で生まれていたり、人から聞いた話やセミナーで聞いたこと、またなにかで読んだ記事など広告以外のことがトリガーとなり、それで広告をクリックする “キッカケ” というのが生まれていて

それなのに、デジタルマーケティングの人はみな広告だけで何かしようとするから、デジタル広告の露出からコンバージョン結果の範囲しか見ない傾向があるし、その分野でしかマーケティングに対する貢献ができなくなってしまうわけです。

多くのマーケターは間違った考え方をしている「直線的に広告からLPへ飛んで、資料請求するとは限らない」

佐藤岳:広告からCVするユーザーだけを見ていたら、どんどん広告費がかさむばかりですからね。そして課題が顕在化されているユーザーだけを刈り取っていては、競争も激しく、ビジネス的には採算が取れません。

しかも、仮にそのユーザーが業務上の何かしらの課題を解決したいと思っていても、切羽詰まっていない限り、能動的に課題を解決するとは限らないわけです。そこで、そのユーザーが日頃目に触れている媒体で、「あっ、これがやりたかったんだ」と課題認識を生み出す接触機会を設計することが大切。

そのためには、マーケティング担当者がリアルなお客様を知り、お客様となる人が日々どういったメディアでどう情報収集しているのかなどを知らないと、接触機会はつくれないわけです。

高広:お客さんも、ずっと仕事の課題を考えて生きているわけではないですからね。お客さんだって、ひとりの人間として日々いろんなことを考えて、学んで生きているということを理解すること。

そして、たまたま頭の片隅にあることが、記事を読んだときにふと思い起こされるというのを、設計しないといけませんね。

日本企業は営業組織にマーケティング機能が内包されていた

佐藤岳:BtoBマーケティングの課題として、他にも組織内でのインターナルなコミュニケーション不足というのが挙げられると思っています。というのも、マーケティング担当者は顧客理解が重要ですが、お客様のことを一番知っているのは、実際にお客様と対面でコンタクトを取ったり、関係値を築いている営業担当なんですよね。

そのため、営業側が知っているお客様の行動、思考、人物像というのを、マーケティング側も共通理解を持つことが大事だなと。つまり、組織内でのインターナルなコミュニケーションを増やし、共通理解が得られることで、顧客イメージというのが「こうあってほしい」という理想像ではなく、リアルティを持った顧客イメージを想像できるようになります。

高広:単純に部署間での会話が少ないというのが課題ですよね。部署間での会話が多いところは勝手に進んでいますから。

また、従来の日本のBtoB企業、つまり製造業など法人向けのビジネスをしている産業というのは、営業部門に「営業企画課」などといった名称で、マーケティングやプロモーションを行う部署が存在していて。よく「日本のB2B企業にはマーケティングがなかった」とまことしやかに言われることがありますが、実際は日本企業はもともと営業組織の中にマーケティング機能が内包されていたのです。

こう考えると、フィリップ・コトラーも語っていますし、また多くの企業で「営業とマーケの確執」について議論されていますが、実際は日本にはその確執がもともとなかったんじゃないかとも。しかし、 “マーケティング部” という部署をつくってしまったことで、むしろ自ら営業との確執をつくってしまったんじゃないか?とも考えられるわけです。

コトラーはマーケティングと営業に関する論文で、営業とマーケという部署それぞれのの役割をはっきりさせることで逆に部署間の確執が生まれるが、次に両者を近づけて融合させるべきであると言っていますが、従来の日本企業は逆。

もともとは営業部門内にマーケ機能があったので、はじめから融合していたわけです。その融合していた部署を切り離してマーケティングに特化させたのが、現在の日本のBtoB企業の事情と言えるでしょう。

そう考えると、営業部門の中にあったマーケ機能では足りないマーケティングとは何かを考えることが大事ですし、そもそもなぜ日本企業は営業中心で、なぜこれまで営業の中にマーケ機能があるモデルで機能していたのかを考えることが大切です。

BtoB企業はサービス産業。売り手と買い手との間にインタラクションが発生しなければ、取引は成立しない

それは、従来の日本企業のビジネスそもそもが、既存の取引の関係性を重視していて,新規の顧客獲得への比重は低かったとが大きく影響しています。90年代から一時期「リレーションシップマーケティング」というのが話題になりましたが、そもそも日本の営業担当はリレーションシップは得意だったんです。

いまのお客さんになっている人が、紹介で他のお客さんを連れてくるということが頻繁に行われており、名刺交換が次の名刺交換を生んでいたわけでした。

一方で現在のBtoBマーケティングでは、従来までのような紹介型のモデルと、新規顧客を集めるモデルの2つのスタンダードが存在している状況

そしてデジタルだけでBtoBマーケティングを考えようとすると、コンテンツつくってサイトにトラフィック集めましょう、MAを導入して見込み客を顧客にしましょうといったことばかり考えてしまいがち。

つまり今のBtoBマーケティングには、日本企業がもともと行っていた関係性マーケティング、すなわちお客様になってくれた方に対して手厚く接する、というのが欠けていることが課題なんですね。

BtoBの取引行動はお客様が参加してくれないと成立しない

さらに言ってしまえば、BtoBマーケティング云々の前に、BtoB企業というのはサービス産業であると言い換えられると考えています。なぜなら、多くのBtoB企業の場合、お客様の都合を聞いて、お客様にカスタマイズして納品することがほとんど。

たとえ製造業であっても、たまたま “モノ” の形をしているだけであって、売っているものはその企業の知識なわけです。

そして、お客様の要望や課題をヒアリングしたりと、売り手と買い手の間にインタラクションがめちゃくちゃ発生するのが、BtoBビジネスの特徴。逆に言ってしまえば、BtoBの取引行動というのは、お客様が参加してくれないと成立しません。お客様も企業も、情報を提供し合うというのが、BtoBの本質です。

つまり、お客様の情報と企業側の情報がぶつかるときにBtoBビジネスの価値が生まれるのだとすると、BtoBのデジタルマーケティングというのは、企業側が情報を発信するのに最適な場。だからこそ、BtoBのデジタルマーケティングがハマるわけです。

BtoB企業はサービス産業。売り手と買い手との間にインタラクションが発生しなければ、取引は成立しない

佐藤岳:BtoBの場合、売り手と買い手が情報を共有しないと、求めている成果が生まれないというのは、本当にそうだなと思います。そしてインタラクションを生むためには、まずは企業側から情報を出さないと、お客様も情報を出してくれませんからね。

また、お客様は自分自身で学習していきますから、学習のためのマテリアルを提供しておくこと。人を介さず、お客様が好きな時間にサイトに訪問し、自ら学んで理解できる情報提供こそが、インタラクションを生み出す前提でしょう。

顧客満足度を高めることがBtoBマーケティング成功の鍵

佐藤岳:あらためて、BtoBマーケティングのあるべき姿というのを高広さんはどうお考えですか?

高広:BtoB “マーケティング” というよりか、もっと大きな視野で考えると、BtoB企業の組織構造から変わるべきだと考えています。具体的には、カスタマーエクスペリエンス部の下に、マーケティング、営業、カスタマーサクセスという3つを内包する組織構成がベストであるなと。まずは、マーケティングと営業をいっそ同じ部署にするところからスタートすべきかもしれません。

なぜならマーケティング、営業、カスタマーサクセスそれぞれの部署が分かれて存在していたとしても、お客様と企業は1対1の関係であるべきで、お客様のデータをすべての部門で共有できるデジタルの世界だからこそ、同じお客様に対しては首尾一貫したコミュニケーションをとらなければなりません

営業担当とマーケ担当で違うことを言っていてはダメなわけです。そして、すべての顧客接点において満足度を高めていかないと、顧客満足度は上がりません。顧客満足度が上がることで、継続購買、継続取引が生まれるわけですから、首尾一貫したサービス提供はもちろんのこと、すでにお客様になってくれている顧客の不満を解決することを考えることが重要。

そのためには、マーケティング、営業、カスタマーサクセスという機能が別の部署で存在しているのはおかしいわけで、ひとつの部の下にこれらの機能が置かれているのがベストであると考えています。

既存顧客からの売上は新規顧客の約4倍。顧客満足度を高めることが、BtoBマーケティング成功の鍵

佐藤岳:もう、共感しかないです(笑)。新規顧客獲得ばかりに注力するよりも、既存顧客との関係を深めていくほうが、ビジネスとしても正しい。

ドン ペパーズが書いた『ONE to ONEマーケティング―顧客リレーションシップ戦略』でも書かれていましたが、既存顧客と新規顧客では受注にかかるコストは1/5であると。

実際に弊社でも、既存顧客からの売上は、新規顧客の4倍近くあり、受注にかかるコストも低くなっています。既存顧客にいかに継続的にお取引をしてもらうかというのは、非常に大事ですね。

高広:そもそも昨今のBtoBマーケティングブームって、本当に「ブーム」だなと思っているんですね。ブームだから、いろいろなメディアがいろいろなことを語り、それを読んでいるマーケターはもっともらしい言説に騙されがち。

そしてロジカルに結びついていないことであっても、話題になっているからと「とりあえず導入してみよう」とMAツールを導入してみたけどうまくいかない、ということは頻繁に起こっています。

よく考えればわかるわけですが、BtoBの営業って、お客様を追い込んでも売れませんよね。恐怖訴求したところで、継続的なお取引というのは生まれない。だからこそ、本質的にはいかに顧客満足度を高めるか、そしてそもそもで自分たちのサービスの価値は何なのかを理解することが大事だなと思います。

佐藤岳:BtoBの商材は、基本的に信頼されてようやく取引が成立しますもんね。そして契約してもらうまでの過程から、契約して期待した通りの成果やベネフィットを感じてもらい、そして継続してお取引してもらうという、この一連の流れが一貫していないと、顧客満足は得られず、企業も継続的な事業成長が望めない。

あらためてBtoBマーケティングの担当者には、顧客をリアルに理解し、顧客満足度をいかに上げるかというのを考えていただきたいですね。本日はありがとうございました!

お話を伺った⼈

⾼広 伯彦 ⽒

⾼広 伯彦 ⽒ スケダチ / 社会情報⼤学院⼤学 代表 / 特任教授

プロフィール

博報堂、電通、Googleを経て独⽴。マーケティングやメディア企業の事業・営業企画の⽀援を⾏う「スケダチ」を設⽴。その後B2Bデジタルマーケティング⽀援に特化した「マーケティングエンジン」を共同創業(のち譲渡)、HubSpot社のAgency of the Yearを⼆年連続獲得、⽇本初のB2Bデジタルマーケティング講座を⽇経BP社と企画するなど、⽇本におけるB2Bデジタルマーケティングの普及に貢献。他に⽶系アドテク企業の⽇本代表や事業開発を兼務し、アドテク・マーテク領域を⻑年経験。現在は企業のマーケティングや事業開発⽀援を⾏いつつ、⼤学院博⼠課程にてサービスとマーケティング研究を⾏っている。