2021.09.21

メール配信だけがMA活用ではない。リアルタイムとパーソナライズで案件を爆増させたHubSpot活用術とは?

  • BtoBマーケティング
メール配信だけがMA活用ではない。リアルタイムとパーソナライズで案件を爆増させたHubSpot活用術とは?

こんにちは、BtoBマーケティング支援サービスを提供するGAXマーケティング株式会社 代表取締役の佐藤岳です。

以前にMA(マーケティングオートメーション)導入について記事を書きましたが、MAはただ導入しただけでは何も成果は生まれません。今回は、MAをどのように活用すべきかを、ブイキューブであった実際の課題や取り組みを交えてご紹介いたします。

以前の記事でもご紹介しましたが、ブイキューブでは2015年12月にRFP(Request for Proposal:提案依頼)を作成し、MAツールベンダーおよびエージェンシー各社へ打診。そして最終的にHubSpot導入が決定し、2016年2月から構築をスタート、2016年4月より本格運用を開始しました。

そしてMA導入以降、ブイキューブではカスタマージャーニーに基づく記事コンテンツの配信やeBookのダウンロード施策を開始。またメール配信ではセミナー開催案内や展示会出展の告知を行うなど、情報発信を強化しました。

また、HubSpot によって見込み客のデータを集約・蓄積できるようになり、案件化に至ったお客様のマーケティング施策への反応履歴やWebページの閲覧履歴を確認し、どういった経緯で案件化したかが見える化できたり、カスタマージャーニーを進めるために自動でメールを配信できるようになりました

ブイキューブであった「MA活用」における実際の課題

マーケティング施策から案件も生まれるようになって、一見するとMAを有効的に活用しているようにも見えるのですが、どうも効率的に案件が生まれているという実感がありませんでした。なぜなら、ナーチャリング対象のお客様からを確度の高い見込客と定義した「MQL(Marketing Qualified Lead)」へ転換することがほんとんど無かったからです。

ブイキューブでは、リードスコアリングの結果100ptを超えた状態のお客様を高確度の見顧客である「MQL(Marketing Qualified Lead)」として定義し、インサイドセールスがフォローする対象としていました。

では、なぜナーチャリング対象者がカスタマージャーニーを進まないのか検討した結果、お客様の「購入検討段階」と「興味関心」に応じた的確な情報を提供できていないということが大きな課題であることがわかりました。

ブイキューブの場合、リードスコアが100ptを超えたら「明らかに購入検討する」状態なのです。その一方で、どれだけナーチャリングをしても、その条件が厳しいためにリードスコアが100ptへ到達する方をほとんど生み出すことができませんでした。

その一方で、リードスコアは100ptに未満でも資料ダウンロードされた方が特定のWebページをご覧になると問い合わせされ100ptを超えることがありました。また、リードスコアは100pt未満であっても、セミナーへ来場された方から案件が創出されるケースが発生するようになりました。

これらのことから、リードスコアが100pt未満であっても導入検討している状態のお客様もいらっしゃるわけで、そうしたお客様をいかにフォローするかが重要と考えました。

当時はインサイドセールスが反響された見込客へのフォロー機能が稼働しておらず、お問い合わせフォームや電話でのお問合せにのみ対応するという状況でした。そこで、インサイドセールス組織の立て直しを行い、その上でフォローすべきリストの見直し、およびナーチャリングの最適化に取り組んでいきました。(関連記事:インサイドセールス組織の立て直した取り組み

設定したスコアリングとは別軸でのフォローを実施。またHubSpotの機能をフル活用したナーチャリングを展開

まず、リードスコアは100pt未満だが、導入検討確度が高いお客様群を見極めるたら良いか検討している過程で「お問合せ」されてきたお客様のデータを丁寧に確認したところ、あることがわかってきました。

HubSpot Marketing Hub Enterpirse には「予測リードスコア」という機能があります。自分たちで設定したスコアリングロジックとは別に、HubSpotのビッグデータ解析の結果、見込客の確度を定量的に表示される機能です。「お問い合わせ」されてくるお客様の予測リードスコアが48pt以上であることに気がつきました。

そこで、「リードスコアが100ptを未満であるが、予測リードスコアが48pt以上のお客様は導入検討の確度が高いのではないか」という仮説を立てました。該当者をリストアップしてインサイドセールスから、これまでのマーケティング施策へ反応のお礼と現在の導入検討状況をお伺いするコールを行ったところ高確率で案件化していきました。

高角度な見込客をリストアップする条件

また、MAのCRMに登録されている業種情報の拡充も進めました。当初、MAでは業種分類を定義し業種情報を取り込んでいました。しかし、全ての見込客情報に業種情報が入っている状況ではありませんでした。

ブイキューブでは、MAはHubSpot、SFAはSaleforce SalesCloudを利用しており、見込客情報は双方で同期していました。HubSpotから取り込まれた見込客情報は、Salesforce キャンペーンメンバーに取り込まれます。Salesforceでは、同一人物の名寄せを行う際に、ランドスケイプ社のLBC企業情報を付与します。

このLBC企業情報の業種分類コードを、HubSpotのCRMに同期することで、HubSpotに格納されている見込客に、本社所在地、業種情報や従業員数、売上高レンジといった企業属性を付与することができます。これらの情報を、ナーチャリングに活用することにしました。

BtoBバイヤーは、自社の課題解決するために情報収集しています。自分の会社と同じような企業が自分たちと同じような課題を解決した情報を知りたいと考えています。そのニーズに応えるコンテンツが導入事例だと考えます。導入事例は、課題を解決した実例だからです。特に、自分と同じような会社という条件を検討してみると、同業種、同規模、同地域という点がポイントになります。

導入事例の制作軸

これらのことから、MAのCRMに入っている見込客の方と同じ業種の導入事例をご紹介するメールを送ることで、導入検討プロセスを進めてもらえるのではないか、と考えました。ブイキューブでは、2016年に導入事例をリニューアルしました。2016年から2020年まで、137件の導入事例を公開してきました。それの件については改めて noteを書こうと思います。

ブイキューブでは、2020年まで導入事例は、Webページ、導入事例PDF、導入事例パンフレット(紙)で制作してきました。Web上では、導入事例ページに導入事例PDFダウンロードをコンバージョンポイントとして設置しています。

ビズリーチ様の導入事例ページでの、導入事例PDFのコンバージョンの動きは以下の通りです。

事例PDFダウンロード時にいメールアドレスを取得

このケースでは、ビズリーチ様という「メディア企業」「人材サービス業」といった業種分類のお客様による「オンライン商談」をテーマにした事例となります。

このような事例をダウンロードされた方に、「オンライン営業」や「オンライン商談」に関連するコンテンツを自動で送信するメールを送信するナーチャリングを実施していました。

また、「大学」、「情報通信業」、「金融業」の業種コードのお客様がHubSpot CRMに取り込まれたら、それぞれの業種の導入事例を紹介するメールを週1回メールを自動でお送りしました。

HubSpot なーチャリングの設定例このように、お客様の業種や地域といった属性情報に応じた情報提供は、メールのみにの止まらずWebサイトのトップページでも同様に行っていました。建設業のお客様や、流通小売業やサービス業などの多店舗展開事業者様が来訪されたら、それらの業種の導入事例を表示する。

お客様の業種に応じて表示する導入事例を自動で変更

地域別での表示も行っていました。北海道のお客様が来訪されたら、北海道のお客様事例を表示する。九州地方のお客様が来訪されたら九州地方のお客様事例を表示するといった要領です。

というのも地方ならではの有名企業というのがあり、関東圏の方は知らない企業でも、地方の方が見れば「あの企業も導入しているのだ」と、サービスの興味関心に繋がる見せ方ができるのです。特に、地方のお客様ほど、地元企業の導入事例を重視する傾向にあります。

お客様の地域に応じて表示する導入事例を変更

これらは、パーソナライゼーションという考え方、お客様の業種や資料DLされた業種に応じて、同じ業種の事例を自動メールで案内したり、サイト上のコンテンツの出し分けなどを行いました。

このように対応することで、メールの開封率やクリック率は大幅に改善されたり、Webサイトで表示された事例をきっかけにお問合せをいただくケースが増えていきました。

さらに、お客様と同業種の導入事例紹介メール配信の取り組みでも変化がありました。CRMの業種情報に連動した事例をお送りするメール配信を2017年に開始したところ、それなりに案件化につながる反響をいただきました。

その運用をさらに変更し、2019年には、ダウンロードされた業種と同じ業種の事例をメールでお送りしました。すると、お送りしている事例紹介メールは同じなのですが、メールの開封率やクリック率が大幅に向上しました。

 大学の関係者を対象にメール送信した結果

このことから、お客様が情報収集しているタイミングで関連情報を届けすることの重要性を認識しました。

そして2018年からは、HubSpotのチャット機能も活用を開始しました。当初は人力でチャット対応を行っており、チャット終了時には相手の見込み客の登録メールアドレスにチャットの書き起こしが送信されるのですが、これがお客様には驚きがあったようで、「チャットの履歴が送られてくるなんて驚きました」とメールでご返信いただくこともありました。

そういったユニークな顧客体験がゆえに、エンゲージメントも高く、件数は多くないものの、HubSpotチャットは全体と比較すると非常に高い案件化率で、かつ1件あたりの売上金額が高いチャネルとなっていったのです。

HubSpotチャットのパフォーマンス比較

また、意外と活用されている企業が少ないように見受けられるのが、Google カレンダーやOffice 365 のカレンダーとHubSpotを連携したミーティングの予約機能です。ブイキューブではテレキューブの見学・無料体験のお申込みを、見学用テレキューブのカレンダーとHubSpotを連携して実施。

メールで担当者と日程のやり取りをしているうちに離脱してしまうといったことのない、スムーズな申込みを実現しました。実際のページは既にクローズしているので、GAXの無料相談予約のカレンダーの画像を掲載します。

GAX 代表の佐藤岳とのミーティング

取り組み開始わずか4ヶ月で1.1億円の案件を創出。効率的に受注に繋がり、営業からも喜ばれるようになった。

MAで獲得した情報をインサイドセールスに通知し、迅速にフォローを実施することで取り組み開始1ヶ月で、目標としていた30件/月の案件創出を達成することができました。さらに4ヶ月目には、1.1億円もの案件創出を実現。そして最終的に翌年の2018年末で商談金額は20億円を超え、そのうち4億円もの受注を生み出したのでした。(関連記事:「問い合わせのみ対応する」インサイドセールスを立て直し、4ヶ月後には1億円超の案件創出を実現した話

そのような成果に結びついたのは、どういったお客様に、どのタイミングで、どういったアプローチをするかを精査していったことが一番の要因です。MAには見込み客の情報が集約されますが、上述の通り、必ずしもお客様の興味関心度合いとMAでのスコアリングには相違が生まれます。

そのため、MAの情報だけを過信して闇雲にフォローするのではなく、見込み客の行動履歴からその行動の背景を汲み取り、どういったニーズを抱えているのかを考えてアプローチすることが重要なのです。

そうした考えがインサイドセールス組織内で徹底されることで、インサイドセールスのメンバーが自らMAの情報を拾い、たとえば「問い合わせしてくる人は必ずこのページを見ているから、新しくリストをつくってメールを送ってみよう」といったアクションが自ら生まれてきました。

また、インサイドセールスから定期的に案件が共有されるので、営業メンバーは商談に専念できます。そして効率的に受注に繋がっていったことで営業本部からは喜ばれるようになり、マーケティング本部と営業本部の連携がよりスムーズになっていきます。

さらに見込み客に対して誰が担当しているかを見える化し、インサイドセールスと営業メンバーで同じお客様にアプローチしないなど、効率良いセールス活動が実現していきました。(関連記事:インサイドセールスは「チャンスメーカー」について

「MA活用」を成功させるための3つのポイント

では、具体的にどういったポイントに気をつけてMA活用を推し進めるべきか、成果に繋がるMA活用のための3つのポイントをご紹介いたします。 

1. リアルタイムとパーソナライゼーション

検討段階に入っていないお客様にフォローをしても、案件化には繋がりません。そのため、MA活用で大切なのは、MAでどういった情報を取得するかではなく、MAからお客様の行動を把握し、その行動に即したアクションをリアルタイムに展開することです。

たとえばHubSpotのチャット機能であれば、まさにリアルタイムにお客様のニーズに沿ったアクションが展開可能で、そのまま案件化に繋がることは珍しくありません。また、「いま」検討しているお客様へ即座にアプローチするためにも、条件に当てはまるリードをインサイドセールスへリアルタイムに通知し、即座にフォローできるよう連携することが求められます。

また、ブイキューブが業種別、地域別に条件分岐を行ったように、MAでの自動化の条件設定を細かく行うことでお客様の興味関心に沿った情報提供、すなわちパーソナライゼーションが可能となり、案件化に結びつくナーチャリングが実現できるのです。

2. 定量的なデータだけで判断しない

MAで知り得たお客様の行動履歴から汲み取るニーズと、実際にお客様が抱えているニーズが異なるということは往々にしてあります。また、スコアリングが高くても、実際に検討段階に入っているとは限りません。

そのため、定量的なデータだけで判断するのではなく、時にお客様に直接ヒアリングを行うことも大切です。たとえば、現在どういったことにお悩みであるか、メールでお伺いしてみてもよいでしょう。すると、意外と「実は……」とお客様が抱える課題についてご返信をいただき、そのまま案件化することもあります。

コミュニケーション次第では、お客様に嫌がられないヒアリングが可能です。いきなり売り込むのではなく、課題と状況を把握することからコミュニケーションをぜひ実施してみてください。

3. MAの様々な機能を使い倒す

スコアリングやステップメールを配信するためだけにMAを活用しているケースも往々にして見受けられますが、MA活用で重要なのは先ほども述べたとおり、「どういったお客様に、どのタイミングで、どうアプローチするか」です。

ブイキューブのように、チャットが有効なチャネルのひとつになるかもしれませんし、予測リードスコアが改善のための兆しになることだってあるわけです。そのため、MAを導入したのであれば、MAの機能でできることを次々と実践してみることが大切です。

たとえばHubSpotであればZoom連携が可能で、お申し込みされたお客様にユニークなZoomのURLを自動送付することが可能ですし、動画配信機能を使えば、動画の視聴時間に応じて別コンテンツの出し分けができたりもします。

戦略設計次第で、様々な使い方ができるのがMAですから、自社のペルソナ・カスタマージャーニーに基づき、理想のタイミングで理想のアプローチを展開していきましょう。

おわりに: 忘れてはいけないのは「人と人のコミュニケーションである」ということ

私たちは「リード」や「見込み客」といったマーケティング用語でお客様のことを表現しますが、それは売り手側が勝手に名付けているのであって、実際のお客様にはまったく関係のないことです。

リアルなお客様を思い浮かべれば、お客様の抱えている課題を解決するために「こうしたことをしてあげよう」といった発想が生まれ、最適な導入事例をご案内したり、課題解決に繋がるウェビナー・セミナーをご案内したりするでしょう。そういったマインドセットがあれば、メールの自動配信だけでは終わらないはずですし、メールの自動配信だけの対応であればお客様に対して失礼なはずです。

つまり、MAというのは人間がやっていたことを自動化するためのツールであり、基本は人と人とのコミュニケーションであるということを忘れてはいけません。MA起点ではなく、お客様ととるべきコミュニケーションをMAでどう自動化するか、とお客様起点でMAを活用していくことが何よりも大切なことなのです。

今回も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

HubSpot に関連する情報

私は、ブイキューブに入社する以前、シトリックス・システムズ・ジャパン株式会社に勤めている時に、2014年9月にHubSpotのトライアルを利用開始し、2014年10月から本番稼働しました。自分でHubSpotの環境をセットアップし利用をスタートしました。

ブイキューブへ2015年11月に入社してからも、ブイキューブで3ライセンス、関連会社の2社へ2ライセンスのHubSpotを導入し活用してきました。これらの経験をベースに、GAXマーケティング株式会社は、HubSpotの導入支援や活用支援をしています。

HubSpotの利活用に関するご相談は、佐藤岳のカレンダーよりご予約ください。

HubSpotの事例やイベント登壇について

マーケティングの見える化で、リード獲得数2倍、新規顧客単価1.65倍へ

Grow with HubSpot 2016 パネルディスカッションに登壇しました

Grow with HubSpot 東京 パネルディスカッションに登壇しました

HubSpot パートナー交流会への登壇しました

日経BtoBデジタルマーケティングアワード分科会 パネルディスカッションへ登壇

ランドスケイプ × HubSpot オンラインセミナー へ登壇しました

佐藤 岳

2000年より事業会社とサービス提供会社で営業、マーケティング担当者としBtoBマーケティングに従事し実績多数。2015年11⽉株式会社ブイキューブ⼊社。2016年4⽉〜2020年12月までマーケティング本部長として商談案件の創出を担当。コンテンツの企画制作、広告運⽤、アナリティクスを完全内製化し商談の創出、受注に貢献。得られた知⾒やノウハウ・ドゥハウを提供するBtoBマーケティング総合⽀援サービスGAX(ガックス)を2020年1⽉より提供開始。