2021.06.14

「問い合わせのみ対応する」インサイドセールスを立て直し、4ヶ月後には1億円超の案件創出を実現した話

  • BtoBマーケティング
「問い合わせのみ対応する」インサイドセールスを立て直し、4ヶ月後には1億円超の案件創出を実現した話

こんにちは、BtoBマーケティング支援サービス『GAX』責任者を務めている佐藤岳です。

これまでに、私が2015年11月にブイキューブに入社して以来、ゼロからBtoBマーケ組織をどうつくってきたか、顧客理解をどう営業と一緒になって進めてきたか、またMA導入をどのように進めてきたかをご紹介してきました。

参考記事:MAツール導入時に役立つテンプレも公開。東証1部上場企業「ブイキューブ」でのMA導入プロジェクトの裏側

MA導入によって、ブイキューブでは確度の高いリードの見える化が実現。それに伴い、より効率的な案件化を実現すべく、2017年からはインサイドセールスの立て直しを行いました。今回は実際にどういったアプローチでインサイドセールスを立て直していったのか、当時の課題を交えてご紹介していきます。

ブイキューブであった実際の課題

前回までのnoteでもご紹介いたしましたが、2015年よりブイキューブでは組織横断での顧客理解を進め、ペルソナ・カスタマージャーニーの考えが浸透。そしてBtoB組織の立て直しやマーケティング・プロセスの見直しを進めていき、獲得するリードは増えていきました。

参考記事:なぜ営業はマーケのリードを後回しにするのか。組織横断での「顧客理解」が大切な理由

しかし、確度が高いリードが迅速にフォローされないため、案件が増えていかないという課題がありました。

確度の高いリードとは、HubSpotのリードスコアが100ptを超えている状態です。リードスコアリングのロジックは、営業部門のニーズを反映して決定しました。しかし、リードスコアが100ptを超えたリードのうち3割から5割がフォローされていませんでした。

というのも、当時は営業本部にインサイドセールスの役割を担う部門がありましたが、当時のインサイドセールスは「お問い合わせフォーム」や「お問い合わせ電話」のリードにのみ対応するという役割でした。

なので、営業部門と摺り合わせて決定したリードコアリングに基づく確度の高いリードがどれだけあっても「インサイドセールスのフォロー対象ではない」という理由からフォローされることはほとんどありませんでした。

営業部門がアプローチしたい企業や団体の方からのお客様事例PDFやeBookなどの資料ダウンロードやセミナー申し込みがあっても、「問い合わせフォーム」や「電話」を経由していないという理由からフォローされませんでした。導入検討の確度が高いお客様からの反応を誰もフォローせずに時間が経ってしまっていくという状態だったのです。

Eugène Murer (Hyacinthe-Eugène Meunier, 1841–1906)

また、当時のインサイドセールス部門は、お問い合わせされたお客様に懇切丁寧なフォローをすることに注力するための努力はしっかりとしていましたが、マーケティング活動から創出された見込客へのフォローし案件化するという考え方が浸透していませんでした。

営業とマーケティングなどの関係者が協働してお客様を理解し、お客様の導入検討プロセスに合わせた情報提供の仕組みを作り運用するという考え方において、インサイドセールスの協力は不可欠です。しかし、組織として役割や責任が定義されていなかったので、インサイドセールス部門自体の立て直しも必要性を感じていました。

インサイドセールスを立て直すために実際に取り組んだこと

まず行ったのが、マーケティング本部と営業本部の本部長、部長とインサイドセールスの関係者を集めた目線合わせのための定例ミーティングの実施です。Google スプレッドシートで課題管理表を作成し、双方で課題を書き出し約40件の課題が共有されました。

課題管理表には、記入日、記入者、緊急度(高・中・低)、重要度(高・中・低)、課題のタイトル、課題の内容、対応策のアイデア、解決に取り組むことで期待できる成果、などを書き込みます。定例ミーティングでは、課題の内容毎に課題の共有、解決策案の検討を行い、各課題について、誰が、何を、いつまでに、どの程度を行うのか記載していきました。

こちらから「課題管理表(XLSXファイル)」をダウンロードできます。

また、決定事項を各担当者の進捗状況の共有や対応策についてまた、決定事項を各担当者の進捗状況の共有や対応策について合計で16回のミーティングを通じて、現状の課題把握からリード管理のプロセス定義を進めていきました

現状の課題感をヒアリング、洗い出しを行っていくと、実は営業サイドでも問い合わせフォームからのお客様だけをアプローチするのには限界がある、という認識を抱いていました。

また案件の進捗管理が徹底されておらず、案件が終了しているのに失注なのか受注なのかのステータスがわからなくなっており、適切なフォロー体制が整っていないことがわかりました。

そこであらためて見込み客をどう管理すべきか、案件の進捗管理をいかに徹底するか、またブイキューブにおけるインサイドセールスの必要性について、営業とマーケティングで認識が一致しました。

生産性を高める=効率的に売り上げるために

インサイドセールスの機能を強化するために、当社におけるインサイドセールスのあるべき姿と、インサイドセールスの体制構築に向けた準備を行いました。

具体的には、Salesforce社のインサイドセールス部門のマネージャーの方に、インサイドセールスのお取り組み状況や業務内容役割について教えていただきました。また、ビズリーチの茂野さんにお願いし、ブイキューブ向けのインサイドセールスの考え方やアプローチ方法について教えていただきました。

これらの過程を経て、2017年7月には営業本部付だったインサイドセールスをマーケティング本部に統合。ブイキューブでもThe Model の運用をスタートすることになりました。4名体制での再スタートを切ります。

The Model 全員でパフォーマンスアップを図るためビジネスプロセスとKPIそして、はじめに立てた目標は「30件/月の案件創出」でした。しかし、問い合わせに対するフォローしかしていない状況からの月30件という目標のため、非常にハードルの高い目標です。そこで目標達成のための施策を以下の3つの観点で検討していきました。

目標達成にむけて取り組んだことそして具体的に実施した施策例が下記になります。

インサイドセールスで取り組んだこと

  • 「FIT2016フォロー」
    前年の秋に開催され金融機関向け専門展「FIT」に来場された方へ、現在の検討状況をお伺いする。
  • 「Human Capital 2017フォロー」
    2017年6月に開催された人事専門展 Human Capital の来場された方へ、出展テーマであった「人材育成、教育位研修」ついて、お取り組み状況や課題のヒアリングなどを行う。
  • 「3大学事例」メールを開封した方
    CRMの業種情報や組織名が大学の方へ、大学のお客様事例を紹介するメールを週に1通ずつ、合計3通送付するメールを配信。そのメールを開封された方へ、Web会議やテレビ会議の課題についてお伺いする。
  • 「セミナー申し込み者へのフォロー」
    セミナーへお申し込みされた方へ、セミナー申し込みの背景や現状の課題、セミナーで聞きたいことや期待をお伺いする。セミナー当日にお客様対応も行う。
  • 「Webサイトを閲覧しているお客様へコール」
    一定期間に一定数のWebページをご覧いただいているお客様をリストアップし、お客様データを名寄せした上で、これまでにブイキューブへ情報提供されたお礼とその後の状況をお伺いする。
  • 「ロストワールド(失われた世界)」
    案件化したが失注したり、検討がストップしたお客様をリストアップしフォローしてみる。実は、失注や検討が止まってから3ヶ月後にフォローすると、改めて検討が始まったり、ブイキューブへ発注されるケースがある。
  • 「郡上リモートワーク」メールを開封した方
    当時、マーケティング本部長だった私は、岐阜県の郡上八幡に解説された子ワーキングスペース、シェアオフィス HUB GUJOに入居しテレワークしていました。社内外との会議、各種申請の承認や人事評価をどのようにやっているのか、よく質問をいただきました。その取り組みを紹介する記事を案内するメールを開封したお客様へ、リモートワークやテレワークのお取り組みについてお伺いする。

参考記事:本部長は郡上八幡にいます|テレワークナビ

あわせてマーケティング施策に反応があったお客様がご覧になったWebページやメールの開封、クリックの履歴をHubSpotの画面で効率的にできるように、通知メールを工夫しました。

インサイドセールスのメンバーは、リードスコア、お客様の部署名や役職名、所属している組織の業種や業態、Webページの閲覧履歴や開封、クリックされたメールの内容からお客様のニーズを想定しアプローチできるようになりました。

このような取り組みを行う前提として、インサイドセールスのメンバーを対象に、デジタルテクノロジーの発達によるお客様の購買行動の変化とそれに対応したマーケティングの重要性について研修、ワークショップを通じて理解を深めました

その上で、ブイキューブのマーケティング施策の狙いや実施内容、想定されるお客様の反応を理解してもらうことで、お客様の情報ニーズに即した精度の高いフォローができるように進めていきました

参考記事:新入社員が知った“自由と責任”―「入社4カ月目のテレワーク」体験記|テレワークナビ

また、インサイドセールスのメンバーが、案件化するお客様とそうでないお客様の行動履歴をもとにしたリストを作成し分析した結果、特定ページをご覧になったお客様は案件化しやすいといったことが判明しました。

そうした結果をもとにMAのスコアリングだけではなく、お客様の行動履歴を元にしたフォロー対象リストの作成やアプローチ対象の役割分担などの改善を続けることで、案件化の精度を高めていきました

なお、自走するインサイドセールス組織をつくるためには、メンバー個々が活動にコミットする環境をつくることも重要です。

そこでメンバー1人ひとりが何件アプローチしたのか、創出された案件数、創出した案件の商談進捗の状況、月次や四半期での目標と実績を見える化するダッシュボードを作成。さらにダッシュボードの内容が毎日、全員にメールで届くようにしました

この設定を行ったことで、ここのメンバーが月次や四半期の目標に対する進捗、日々の活動の結果を定量的に振り返られるようになったことで、活動の量と質が向上していきました。

インサイドセールスダッシュボード 日々の活動量と創出された成果、目標達成の状況を見える化。毎日メールで届く。

組織の立て直しから、わずか4ヶ月で1.1億円の案件を創出。効率的なセールス活動が実現した

こうした活動の結果、組織を立て直した翌月には目標としていた30件/月の案件創出を達成。さらに4ヶ月目には、1.1億円もの案件創出を実現。そして最終的に翌年の2018年末で商談金額は20億円を超え、そのうち4億円もの受注を生み出したのでした。

当然ながら、インサイドセールスから定期的に案件が共有されるので、営業メンバーは商談に専念できます。また、効率的に受注に繋がっていったことで営業本部からは喜ばれるようになり、マーケティング本部と営業本部の連携がよりスムーズになっていきます。また、見込み客に対して誰が担当しているかを見える化し、インサイドセールスと営業メンバーで同じお客様にアプローチしないなど、効率良いセールス活動が実現していきました。

インサイドセールスの月次案件数 目標達成の推移参考記事:インサイドセールス立ち上げから4ヶ月で1億円の新規商談創出に成功

そして電話だけでなく、HubSpot の チャット機能を使ったフォローも開始。そうすると、意外にもHubSpot チャット機能からの案件化率が高く受注率は他の施策と比べても遜色ない。1件あたりの売上金額が高いことがわかりました。

チャットの画面に表示する文言を変えることで、チャット経由で相談される内容が異なること、案件化率が異なることがわかりました。この表現もメンバーによる試行錯誤の結果明らかになりました。

HubSpot チャットのパフォーマンス

ちなみに当時チャットボットの機能を利用できましたが、まずは人力で対応することでノウハウをためるために、メンバーが人力で対応していました。

お客様は、ボットが対応するのだろうと想定して話しかけられるため、人が丁寧に対応すると非常に喜ばれましたチャットでお話ししたお客様よりメールアドレスをいただけた場合、チャット終了後にはチャット内容の履歴がお客様にメールで送信されるため、「こうしてチャットを見返すのは面白いですね」とお客様から返信をいただくなど、信頼構築に繋がるコミュニケーション手段となっていました

このように営業の案件創出に貢献するインサイドセールスの体制構築と運用が整ったことで、営業部門の対象市場別に案件創出を支援してほしいという要望をもらうようになりました。そこで、インサイドセールスの体制も、各市場に特化したご案内ができるように役割やフォーメーションを変更しました。まさに、Web会議サービスの用途や利用シーン、業界に特化した付加価値をつけて提供する「バーティカル」なマーケティング・セールス活動にシフトしていきました。この内容については、別に記事を書きます。

ブイキューブのインサイドセールス部門の体制

2015年の入社当時は、週次の営業部門とマーケティング部門のマネージャー陣が集まる会議の場では、いつも「早く案件創出してくれ」と言われていましたが、十分な案件創出が継続的にできるようになった2018年ごろからは何も言われなくなり、個人的に「やったぁ!」と達成感を感じた瞬間でした。

このような取り組みを内外で発信することで、ブイキューブのインサイドセールスについて取材を受けるなど、社内外にも存在感を示す組織へと成長していったのでした。

参考記事:インサイドセールスは「チャンスメーカー」 ツールを駆使し、柔軟な働き方も実現するブイキューブの文化:SalesZine(セールスジン)

まとめ:インサイドセールスは営業職の “上がり” のポジションであるべき。テレアポ部隊として捉えると失敗する

ブイキューブでは、インサイドセールスを “チャンスメーカー” と位置付け、「お客様への情報提供機会の創出」「営業本部への商談機会の創出」の2つがインサイドセールスの役割であると考えています。

まず「お客様への情報提供機会の創出」に関して、インサイドセールスはお客様の課題を整理し、お客様の課題を解決するために何ができるかを確認し、より詳細な情報提供をご希望であれば営業担当へ繋げますよと、さらなる情報提供機会をつくることが求められます。

そして「営業本部への商談機会の創出」は、たとえば銀行業であれば1〜2年かけてクロージングをしていく必要があったりと業種や業態によって商談条件が違うため、インサイドセールスは営業担当が効率的かつ的確な提案活動ができるようお客様にアプローチをすることが大切です。

チャンスメーカー(機会創出)とは?

そのため、インサイドセールスの役割を理解しておらず、ただのテレアポ部隊という感覚で組織づくりをしてしまうケースも多く見受けられますが、それだと失敗しがちです。

なぜなら、インサイドセールスはお客様とのタッチポイントにおいて非常に重要な役割を担っており、お客様の購買プロセスを理解していなければ、お客様とそもそも話が噛み合わないなど適切なアプローチができず、受注どころか案件化にすら進めないからです。

逆にインサイドセールスからのアプローチがお客様にとって良い体験となれば、受注に繋がっていくでしょうし、受注に繋がらずとも企業やブランドのファンになってくれることでしょう。

そのため、インサイドセールスには下記のような素養・スキルが求められます。

インサイドセールスに求められる素養/スキルブイキューブのインサイドセールス立ち上げの際も、これら3つを軸にメンバーへの教育を実施。そして業種や企業規模別にアプローチすべき領域を選定した上で、アプローチ内容を変えながら、見込み客へのフォローを行ってきました。

参考記事:新人営業が配属2カ月で急成長 その秘密は「動画活用」にあった - ITmedia NEWS

インサイドセールス組織に、どういった人材をアサインすべきか悩まれている企業担当者も多いと思います。「インサイドセールスは営業職の “上がり” のポジションであるべき」と、B2Bファシリテータの 飯室 淳史さんがお話をされていますが、まさにその通りであると私も思っており、営業職よりもインサイドセールスのほうが給与が高くていいと考えています。

それくらいインサイドセールスは重要なポジションであり、トップ営業の方がインサイドセールスに就くことで、より組織は成長していくでしょう。

そしてトップ営業の方をアサインできなかったとしても、お客様により添えないと案件はつくれませんから、気が利く方、人のために役に立とうと思って行動できる方がインサイドセールスに最適です。

なお、GAXではマーケティング施策の実行支援だけでなく、こうしたインサイドセールス部門の立ち上げ支援や組織横断での顧客理解ワークショップの実施など、BtoBマーケ組織づくりからご支援可能です。

また、GAXのサイトではBtoBマーケティングのナレッジも発信していますので、ぜひ参考にしてみてください。

佐藤 岳

2000年より事業会社とサービス提供会社で営業、マーケティング担当者としBtoBマーケティングに従事し実績多数。2015年11⽉株式会社ブイキューブ⼊社。2016年4⽉〜2020年12月までマーケティング本部長として商談案件の創出を担当。コンテンツの企画制作、広告運⽤、アナリティクスを完全内製化し商談の創出、受注に貢献。得られた知⾒やノウハウ・ドゥハウを提供するBtoBマーケティング総合⽀援サービスGAX(ガックス)を2020年1⽉より提供開始。