2021.06.09
なぜ営業はマーケのリードを後回しにするのか。組織横断での「顧客理解」が大切な理由
- BtoBマーケティング
こんにちは、BtoBマーケティング支援サービス『GAX』責任者を務めている佐藤岳です。
私が2015年11月にブイキューブに入社して以来、BtoBマーケティング組織の立て直しに取り組んできました。
その結果、2020年にはマーケティング活動からの新規受注を2016年比で9倍成長を実現したわけですが、今回は組織立て直しで最も重要であると考えている、組織横断での「顧客理解」をどう進めていったのかをご紹介します。営業部門とマーケティング部門で対立が起きている皆さまに、少しでも参考にしていただければ幸いです。
ブイキューブであった実際の課題
2015年当時、ブイキューブのマーケティング本部はすべての施策をエージェンシーに丸投げしている状況で、展示会で2万件近いリストを獲得しても、成約はわずか11件のみ。さらにリストを営業本部へ渡すのも展示会開催の2ヶ月後と、お客様の検討期間が過ぎたタイミングで意味をなさないような施策の進め方をしていました。
結果、当然ながらリードが案件化せず、受注にも繋がらないという状況が続いていました。マーケティング活動による新規受注が2016年比で9倍となった2020年の広告予算よりも、当時は多くの広告費を使っている状況にも関わらずです。
そのため、営業本部からすると「マーケが案件に繋がる見込み客を獲得しないから、営業側も予算達成できない」という認識ですから、終いには営業本部自ら集客のためのセミナーを開催したり、アウトバウンド営業でなんとか案件をつくるといった状況で、非効率な営業活動となっていました。
営業メンバーは「マーケは意味のないことに予算投下するくらいなら、テレアポをしてくれ」と思っていたことでしょう。実際、当時のマーケティング本部は、案件化したかどうかではなく、上司からの評価を気にして、とりあえず予算消化を進めているような状況でしたから、そうした温度感の違いから、本来は協力しあうべき営業本部とマーケティング本部の間で、対立が生まれてしまっていました。
しかし、こうした営業部門とマーケティング部門の対立というのは、BtoBマーケティングを行う企業ではよくあるの課題です。 “営業の教科書 「営業とマーケティングの壁を壊す」” というハーバードビジネスレビューで論文でも営業部門とマーケティング部門は対立について述べられてます。
「マーケティング(手法)」といっても、マーケティング部門が企画・遂行する手法は、以下のように目的や目標によって多岐にわたります。案件につながる見込客を獲得するためには、一つの手法を実施するだけではなく、複数の手法を組み合わせることが不可欠です。
その一方で、営業部門は、売上予算というノルマの達成に向けて、日々奮闘しています。営業パーソンの視点では、いかに自分の勤務時間内で、ノルマの達成に向けた効率的な営業活動ができるだろうか、どのお客様へどのように提案したら効率的に受注できるだろうか、ということに主眼を置いています。
営業パーソンがマーケティングから提供された見込客へのフォローを依頼されても、そのお客様の導入検討の状況や確度が不明確だと、効率的な受注につながるか不安になったり、ノルマを達成できない懸念があるため、どうしてもフォローが後回しになります。
そのような背景から、マーケティングがしっかりと企画し、予算をかけて実施した施策から創出された見込客が的確なタイミングでフォローされず、案件化しないためマーケティングの投資対効果が低くなってしまう。そしてマーケティング部門の頑張りが評価されないことに、メンバーは不満を感じてしまうでしょう。
こうした営業とマーケティングの対立を解消するためには、お互いの業務上の役割と責任や業務内容を理解し合うことが大切で、その上で受注に繋がる連携を取るためには、組織の壁を超えて自分たちのお客様を正しく理解する必要があります。
また、組織横断での取り組みのためには目線合わせが大切であり、ペルソナ・カスタマージャーニーマップの設計や施策立案、リードに対するフォローアップからインサイドセールス、クロージング含め、BtoBマーケティングにおいてすべてのスタート地点となる「顧客理解」を関係者全員で進めていきます。
組織横断で「顧客理解」を進めるために実際に取り組んだこと
以前の記事でもお伝えしましたが、2015年12月より私はBtoBマーケティング組織の立て直しに着手。そこで、私たちのお客様(顧客)を理解し、顧客の購買行動を理解すべく、マーケティング本部の他、営業本部や事業責任者を交えたワークショップを開催しました。
ワークショップでまず行ったのが、参加者自身の購買行動の振り返りです。参加者の中から複数名に立候補いただき、ここ1年以内によく考えて購入した製品やサービスと、それを購入するまでのプロセスをリアルタイムで振り返ってもらいました。
実際の回答フォーマットは、こちらからダウンロードできます。
この購買行動の振り返りは、「あの商品買ったんだ」「そういう課題あるよね」など、参加者同士でも非常に盛り上がるワークショップで、チームビルディングとしても有効です。そして、回答の内容をみんなで振り返ると、購入した商品やサービスは違えど、ある共通項が見えてきます。それが下記です。
1. 何かきっかけや課題に気がついて、その解決策を探すために製品やサービスの検討を開始する。
冷蔵庫や洗濯機などの家電が壊れた。自動車が車検の時期で買い替えを検討した。今度の旅行はどこに行こうか。テレワークが増え、梅雨の時期なので除湿機が欲しい。自宅で料理する機会が増え、新しい包丁が欲しくなった、など。
2. オンラインで情報収集したり、身近な専門家に質問する
キーワード検索して、オンラインで情報収集する、検索エンジンのみならず、TwitterやInstagram などのソーシャルメディアやYouTubeで検索する。また、身近にその分野に詳しい人に聞いてみる。ある程度の機能や要件を絞り込んだ上で、価格を比較したり、特にレビューは重視する。
3. 製品やサービスを事前に決めてから購入する
何を、いくらくらいで、どこで購入するか、決めてから購入している。
同じ製品の購入でもオンラインで購入する人と店頭で購入する人に分かれる。
4. 皆さん購入された製品やサービスに満足されている
ご自身で能動的に、積極的に情報収集し、比較検討した結果、購入しているからこそ、購入された製品やサービスに皆さん満足されている。それは購入した製品やサービスが期待通りだったからであり、納得して購入しているため、満足度が高い。
実はこれらの共通項に見られる消費者の購買行動は、ZMOT(ジーモット)と呼ばれています。ZMOTは2011年にGoogleが提唱した概念で、お客様は何らかの課題に気づいたり、トリガー(きっかけ)により、課題を解決するための手段や製品・サービスに関する情報収集を開始します。この瞬間を「Zero Moment of Truth(ZMOT)」と定義されています。
先のワークショップで振り返った参加者自身の購買行動はまさにZMOTであり、皆さんは購入を決めるまでに自身が抱える課題に対して、自ら情報収集をしていたのでした。
上記の図は、一橋ビジネスレビュー 2016 Autumn(64巻2号)P54 デジタルマーケティング - マーケティングの民主化」著:高広 伯彦 氏、藤川 佳則氏より引用しています。
実はこのZMOTはBtoBバイヤーでも同じで、Corporate Executive Board (CEB)による調査によると、BtoBバイヤーは営業パーソンにコンタクトする前に、課題の発生、解決策の探索、評価選定、といった購買プロセスの57%を完了していると述べられています。(出所:営業の教科書 「ソリューション営業は終わった」P45)
ワークショップではこうしたお客様の購買行動を理解した上で、次に “お客様” はなぜブイキューブの製品やサービスを購入するのか、営業にコンタクトをとるまでにどういった情報収集を行っているのか、そして導入検討している方はどんな人なのか、と参加者に質問。
宿題として、参加者全員にペルソナ、カスタマージャーニーを作成してもらいました。そして後日ふたたび集まり、持ち寄ったペルソナやカスタマージャーニーを整理し、マーケティング本部と営業本部で共通認識を持ったペルソナ、カスタマージャーニーができたのでした。
その後、作成したカスタマージャーニーに基づき、お客様が自ら購買プロセスを進み、買っていただける仕組みをつくるべく、記事コンテンツやお客様事例などのコンテンツを拡充。コンテンツ制作や情報発信のための体制構築については、また次回以降の記事で細かくご紹介したいと思います。
商談件数は半年で6倍に。担当営業は売上予算200%達成を実現
当時ブイキューブでは「テレビ会議サービス」の売上が伸び悩んでいたのですが、ワークショップを実施したことで、テレビ会議の導入を検討されるお客様は新規導入を検討されている方ではなく、すでに導入済みでリプレイスを検討されている方であるという気づきが得られました。
そこで2015年12月にワークショップを開催した後、すぐに作成したペルソナやカスタマージャーニーに沿った情報発信を開始。翌月2016年1月13日には、“[ 新機能 ] テレビ会議のリプレイスや拡張をご検討中の方 必読” という件名でのメールを配信したところ、当日中にメールからのお問い合わせが発生します。
そして1月20日にお客様をご訪問し、テレビ会議システムを実演。とても気に入っていただき、初回訪問でお見積り依頼をいただくという、非常に効率的な案件創出となりました。
関連記事:セミナーご来場者様から3週間後に注文書が届き予算達成した件
その後もカスタマージャーニーに沿って、評価選定フェーズの見込み顧客を対象としたセミナーを実施するなどを進めていった結果、2016年3月の時点で担当営業は上期予算を達成、最終的には予算200%達成を実現。さらに商談件数は半年で6倍へと増えていきました。
この成功事例が社内で反響を呼び、何か新しい製品やサービスを販売するときは、まずペルソナ、カスタマージャーニーをつくろうという文化が形成されていきます。
特にブイキューブでは製品数が多く、さらに営業部門も業界別に分かれていたのですが、以前は業種や用途別にペルソナやカスタマージャーニーを作っていませんでした。
しかし、少しずつ業種や用途別にどうアプローチすべきかを、営業とマーケティングメンバーが一緒になってペルソナ、カスタマージャーニーを作成していき、それらに合わせたコンテンツを用意していくという動きが生まれ、営業とマーケティングの対立という構図が解消されていったのでした。
まとめ:顧客理解に基づく施策を展開していくためには、役員や事業部長らとの共通理解を持つことも大切
企業によって社内事情は異なります。せっかく営業部門とマーケティング部門が一緒になってペルソナ、カスタマージャーニーを作成したとしても、決裁権がある方や発言力の強い方の一言で、顧客理解に基づく施策がうまく展開できないといったケースは珍しくありません。
そのため、上記でご紹介した自身の購買行動を振り返り、お客様の購買プロセスを理解するワークショップを、ぜひ役員陣らにも参加いただくことをオススメします。営業部長などの事業部長クラスはマストで参加したほうがよいでしょう。
そうすることで、現場メンバーだけでなく、組織での共通理解が生まれることで、共通言語が生まれ、BtoBマーケティングを成功させるための文化が生まれていきます。
特にお客様は購買プロセスの57%を自ら進んでいくということを理解すると、組織として投下すべきリソース配分も異なってくるでしょう。
お客様の購買行動とは?
<お客様の購買行動>
- お客様はご自身で情報収集を行う
- お客様にとって役立つ情報提供が重要
- お客様は課題が顕在化したタイミングで情報収集を開始
<お客様に見つけていただき、選んでいただくためには?>
- お客様が探している情報を提供していること
- お客様に情報を見つけていただくこと
- お客様の課題に応えられそうだと興味を持っていただくこと
また、BtoBマーケティングについてインターネットで調べると、多くの記事では「手法」にばかりフォーカスした内容となっているように見受けられます。
しかし、このように顧客理解を行い、ペルソナ、カスタマージャーニーを作成すると、手法というのはペルソナとのタッチポイントによって異なり、大切なのは手法ファーストで考えることではなく、ペルソナ起点でどういう手法が良いのかを考えることであると気づくはずです。
当然ながら、はじめからうまくいくとは限りません。しかしカスタマージャーニーをベースに、自分たちが立てた仮設に対して施策の結果を振り返り、改善していく活動が不可欠です。
お客様のニーズに即した情報提供を行うためには、Marketing Automation (MAツール)が欠かせません。お客様がカスタマージャーニーのどのあたりにいるのかを把握したり、お客様の行動からシグナルをキャッチすることで、お客様の興味関心に応じた情報提供を自動的におこなえるようになります。
そこで次回の記事では、ブイキューブでの「MAツール導入」プロジェクトにおいて、具体的にどう進めていったのかをご紹介しようと思います。
今回も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
佐藤 岳
2000年より事業会社とサービス提供会社で営業、マーケティング担当者としBtoBマーケティングに従事し実績多数。2015年11⽉株式会社ブイキューブ⼊社。2016年4⽉〜2020年12月までマーケティング本部長として商談案件の創出を担当。コンテンツの企画制作、広告運⽤、アナリティクスを完全内製化し商談の創出、受注に貢献。得られた知⾒やノウハウ・ドゥハウを提供するBtoBマーケティング総合⽀援サービスGAX(ガックス)を2020年1⽉より提供開始。