2022.10.31

大学時代に身につけておきたかったコピーライティングのルール | コンテンツマーケティングワールド2022レポート

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大学時代に身につけておきたかったコピーライティングのルール | コンテンツマーケティングワールド2022レポート

「大学時代に身につけておきたかったコピーライティングのルール」/ The Copywriting Rules You WISH You Had in College

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GAXマーケティングのコミュニケーション・ディレクター、原田亜紀夫は9月に表題のセッションをアメリカで受講した。前週に、「元朝日新聞記者、米国コンテンツマーケティングイベントで心打たれたこと」というリポートを小欄で紹介し、読者の方から「海外カンファレンスって面白い」というコメントや激励のメッセージをいただいて心に沁みた。おだてられて木に登る豚の気持ちになって、今回はその第二弾をお送りしたい。

米国オハイオ州・クリーブランドで開かれたContent Marketing World & Expo 2022の講師陣のなかでも、いま「最もイケてる」一人と多くの聴衆がツイートしていたKate Bradley Chernis (ケイト・ブラッドリー・カーニス)のセッションを聴いた。

ハーバード大、コロンビア大、NYUなどでもゲスト講師を務め、Lately. AIの創業者であり、経営者。ロックンロールのDJの経験もあるそうだ。そんな「おしゃべり」のプロだった彼女が「ライティング」の重要性、テクニックを説く点もユニークだ。「動画や音声のコンテンツがあふれるこの時代でも、最終的には何らかの形で、文章、テキストとして伝播し、残る」とケイトはいう。

「書くことは最も重要なビジネススキル」

普段は同じ内容を50分ほどの時間をかけて話すというが、当日は30分の短縮バージョン。それでも、自分を含めて日常的に「書く」ことにやりがいと悩みを同時に抱えている聴衆には響いた。コンテンツマーケティング業界に限ったことではないと、彼女はいう。

「書くことはおそらくすべてのジャンルにおいて、最も重要なビジネススキル」。英語でのセッションは「日本語」を書く上でも考えさせられることが多く、キーボードを打つときに感じる迷い、モヤモヤを晴らし、「読まれる文章」を再定義してくれた。

以下は、ケイトが推奨する11箇条の「コピーライティングのルール」。日本語に訳しながら解釈してみた。

ボスが書くように書け / Write Like a Boss

ボスのように腕を組む女性いきなり、心を見透かされて、ズドンとパンチをくらった気分になった。

ケイトいわく、「自信がすべて」。「何を書くかよりも、どう書くか、だ」という。

自分自身に置き換えると、このサイトで書くコンテンツもそう。クライアントの「導入事例」もしかり。私が書く場合もこの業界で成果を出し続けてきた私のボス、佐藤岳が書くように書かなければならないということだろう。“Think like a Publisher”にも通じる。さらに「ウイークワード(弱い言葉)」はなるべく使うな、とも。「必要だ」「考える」「少し」「たぶん」「おそらく」など。自信がない表現、「濁す」接頭語などは、読者に見透かされる。

「要チェック」はダサい / Check Out

これも興味深い。以前はよくラジオの曲の前振りで「Check it out!」という言葉を聞いたが、最近はあまり聞かなくなった気もする。ケイトはこのワード、Check Outをマーケティング・ボキャブラリーからは完全に排除すべき、という。

確かに、「要チェックだ」「チェックしてみましょう」と言われても、何がどういいのかわからない。その代わりに、読者や視聴者のCall-to-Action (行動喚起)を促す「アクティブな動詞」を使えと説く。

出し惜しみするな / Don't Bury the Lede

Don’t Bury the Ledeはいかにもアメリカっぽい言い回しで映画のフレーズにもたまに出てくるが、「出し惜しみするな」という表現がぴったりくる。

文章やメールのタイトル、なるべく冒頭にCall-to-Action (行動喚起)を促す動詞を、ということだと理解した。

私が新聞記者時代にはよく「ニュースは逆三角形に書け」と言われた。紙面が狭隘な場合、後ろの部分は編集者に削られてもいいように、という意味合いで。違うようで似ているとも感じた。

ネガティブなCTA(行動喚起)を使え / Use Negative Calls to Action Instead of Positive Ones

「ルールに従うことを覚えておいてください」というよりも「ルールに従うことを忘れないで」という表現の方が強い、効果的だというのがケイトの主張だ。同じことをいうのでも、“Remember”と“Don‘t Forget”では後者が効きそうだというのは感覚的に理解できた。ちょっとした言葉のチョイスの違いだが、効果は変わってきそうだ。

「なぜ?+なぜなら」関係性の影響力 / Leverage Why? + Because

「なぜ?」で問題を解決したがる読者は「なぜなら」を期待する。「なぜなら」は「なぜ」を解決する。そして信頼のきっかけを仕込んだ「なぜなら」は、説得力のあるCTAのカギである。文の冒頭の「なぜなら」は、読者に「間」や「一拍」を与え、「なぜ」は「?(クエスチョンマーク)」を視覚的に想起させる利点がある。Why と Becauseの相関関係で文脈がよりわかりやすくなることで、読者は自分が求めている情報かどうか判断しやすくなり、CTAを喚起しやすくなるということだろう。

「私は」は独りよがり/ ALL Hail the Royal We/You

(コンテンツマーケティングで)「私は」という表現は避けてください、顧客や見込み客ではなく、「あなた」にすべての注意が向いてしまうから、とケイトは説く。「I(私は)」はわがままで独りよがりな言葉です、と指摘した。一方で「私たちは」「私たちの」は一体感をつくり、インクルーシブな状況と信頼を醸しだすとケイト。「あなたたち」「みなさん」は共感を強めるというのはもっともだ。

書いたものは声に出して読め / Read What You Write Out Loud

PIXTA文章を声に出して読む女性声に出してぎこちなく、ヘンテコに聞こえるものは「読んでいても(黙読)、ぎこちなく、ヘンテコな文章である」。人間味があって、自然で、親しみやすい言葉を使って書きなさい。そして、音読すると間違いに気づきやすいという「ボーナス」も。まさにその通りだ。

視覚的に書け / Write With Your Eyeballs

「スペース」「数字」「イクスクラメーション」「クエスチョンマーク」「ダッシュ」「かぎかっこ」「絵文字」…。これらを駆使して、「見やすく」書け、という。言葉を効果的に、視覚的に並べると、食べ物のように、消化がよくなり、おいしそうになり、信頼できるようになる。ケイトが「絵文字」をプレゼンテーションのスライドでemojisと表現しているのには驚いた。

人にしてもらいたいことを施せ / Do Unto Others

これも欧米の独特の言い回しだが、日本語的に言えば、「相手の立場に立て」といったところか。あなたが書く文章を読む相手は、忙しく、ストレスを抱えたあなたと同じ人間。そんな相手の立場になって書きなさいと彼女は説く。情報を求めている人に対して適切なタイミングで適切な情報を提供するコンテンツマーケティングの原点を改めて強調していた。

クリアな目標に向かって書け / Write With a Clear Objective

見込み客や顧客に行動を起こしてもらいたいから、書く。それは恥ずべきことではない。そして「何をしてもらいたいのか」をはっきり定義して書きなさい、とケイトはいう。ソーシャルメディアならば、目的は二つ。コンバージョン(クリック)とリーチ。その先をクリックしてもらいたい時、「Learn more(もっと詳しく)」ではダメだという。クリアな目標に向かって書くという視点では、私は新聞記者時代、記事を書く前に「仮見出し」を考えて書き始めるように習慣化していた。デスク時代には、原稿を売り込んでくる後輩記者に「(グダグダ説明せずに)、仮見出しを決めてそれを教えて」と指導した。そうすれば、「目的」に沿ってぶれずに書き切ることができる。

その文章、自分たちで食べてみよ / Dog-Food Your Own Marketing

Dog-Foodを名詞ではなく動詞で使ってケイトは説明した。アメリカっぽいスラングだ。IT業界で広まった「自分たちで自分たちの製品をまず使うこと」を意味する。文章を書いたらまずは社内で読みまわし、感想を言いあうことが大事だという意味だ。第一読者となる同僚の指摘は、示唆に富む強い反応だ。同僚は「最強の支持者」だということだろう。

私の場合、GAX代表の佐藤岳とは幸い言葉のセンス、選び方が似ているとよく感じることがある。それは些細な事のようで、私にとってはとても大きなことだ。私が書いた表現を尊重し、採用してくれることを通じて、共感しあえるし、信頼しあえる。例えば、佐藤岳は導入事例を以前は「受注につながる導入事例」と話したり、書いたりしていたが、最近は「受注を呼び込む導入事例」という私が使いだした表現を好んで使ってくれている。

コンテンツマーケティング・ワールドで人気のセッションだった「大学時代に身につけておきたかったコピーライティングのルール」では、ちょっとした言葉、特に動詞の選び方で、文章の印象も読者の行動も変わる、と気づかされた。

書くことは、つらくて、面倒で、悩ましい。だけど、楽しい。

原田 亜紀夫

上智大学外国語学部英語学科を卒業後、1995年電通入社。主に外資系飲料メーカーのブランド担当営業としてスポーツドリンク、ミネラルウォーターのキャンペーン戦略立案を主導した。2002年朝日新聞社に記者職で転職。スポーツ部記者として国内・海外を幅広く取材し、リオデジャネイロ五輪では現地取材班キャップを務めた。2020年秋、東京オリンピック・パラリンピック大会組織委員会に入会し、ホッケー会場のVGM(ベニュー・ゼネラルマネジャー)に。2022年夏よりGAXマーケティング参画。1972年北海道函館市生まれ。8月13日「函館夜景の日」発案者として現在も「はこだて観光大使」を市から委嘱されている。